For Japanese Talents

For Japanese Talents

TT2020 修了生レポート 5

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポートを掲載しています。

木下雄介

Talents Tokyoでは、アジアの監督・プロデューサーである15人のタレンツたちが、エキスパーツと各々の企画を詰めるグループセッションを経て、5分のピッチング+5分のQ&Aで自身の企画を映画関係者に向けて発表するオープン・プレゼンが主となります。

今年も海外のタレンツはすでに海外映画祭やワークショップの経験豊かな面々でした。社会的なテーマと聴衆の興味を引く問いかけ、映画の世界観をデザイナーに起こしてもらったムードボード、ワクワクするようなメンバーを世界各国から集めたチームの提案など、「この映画を今作る意義があるのだ」と他人に理解してもらうための説得力に強度がありました。

以前、自分が参加した際に感じたのは、個人的な問題に対する目線から描かれた繊細さにこだわるだけでは、いくら思いを伝えても、文化歴史が違う国の共通理解のない他者にはよくわかってもらえない。その個人の物語の背景にある社会や時代も徹底的に掘り下げること。また海外の同世代の映画人との関わりの中で、その物語を外から見たときにどういう意味を持つのか、客観的な視点を鋭くすることが大事だと思いつつ、今も勉強は続いています。

今年はオンラインでの開催となりましたが、タレンツ達はコロナによる外出自粛下でも、自分の映画企画を話し合える喜びを語っていて、今集う意義を感じました。それと同時に、オンラインではどうしても人と直接会った際に五感で掴む情報量が欠落します。特にオープン・プレゼンでは、普段部屋いっぱいになる聴き手の顔が見えず、タレンツには自分と同じものを見て聞いているか不安が付きまといます。主催の日本人の聴き手にできることといえば、いつにも増して自分の意図を明確に主張する・他人のために差し出していくことであり、その根っこは映画祭で行われるコミュニケーションと変わらないと思いました。

アジアは近いです。壁に囲まれた部屋からであろうと、同じ星の下にいる想像力が喚起されました。

KINOSHITA Yusuke (Director, 2016 Alumnus)
木下雄介(監督、2016年修了)

1981年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。監督・脚本・撮影・編集した自主映画『鳥籠』(02)がぴあフィルムフェスティバルにて準グランプリと観客賞を受賞。第15回PFFスカラシップとなる初長編映画『水の花』(06)がベルリン国際映画祭に出品される。その後短編映画『NOTHING UNUSUAL』(12)を発表。
最新作は是枝裕和総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(18)の一編『いたずら同盟』。香港で製作された『十年』(15)を元に、日本・タイ・台湾の映像作家がそれぞれの国の10年後を描いた国際共同プロジェクトに参加。日本版の『十年Ten Years Japan』は釜山国際映画祭に出品され国内外で劇場公開された。

TT2020 修了生レポート 4

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポートを掲載しています。

今井太郎

少し間隔が開いてしまいましたが、タレンツ・トーキョーは11月7日に無事終了しました。

まず、11月5日に開催されたオープンプレゼンについて。今年のオープンプレゼンは初のオンライン開催という事で、タレンツがZoomでプレゼンし、その様子がYouTubeで全世界にライブ配信されました。これは真剣に共同プロデューサー、出資者、セールスエージェント、配給会社等、協力者を探しているタレンツにとって大変有意義な試みだと思います。実際に、YouTubeで見ていた海外の業界人から多くの反響があったようです。

各タレンツの企画は例年同様、ハイレベルなものばかりで、私も関わる事ができたらいいなと思う企画がいくつかありました。そしてタレンツ・トーキョー・アワード2020はチア・チーサム監督の「Oasis of Now」、スペシャル・メンションはネリシャ・ロー監督の「Pierce」と北川未来監督の「KANAKO」が受賞しました。受賞者の皆さん、おめでとうございます!しかしプレゼンの目的は賞を取る事だけではなく企画を進める事だと思うので、タレンツ全員にとって有意義なプレゼンになった事と思います。

コロナ禍の中、世界中で撮影は停滞していますが、新しい企画への需要は高まっています。そして様々な記事で見るように、今アジアが世界から注目されています。私にもFacebookで海外の友人からプレゼンについて連絡があったり、タレンツにとっても、業界の人たちにとっても盛り上がったイベントになった様です。

そして最終日には黒沢清監督のマスタークラスが開催されました。黒沢清監督は是枝裕和監督と並び日本を代表する監督ですが、二人のワークショップは対照的であった事が印象に残りました。黒沢監督の考え方はより現実的で、質疑応答の答えもより具合的だったので、タレンツにとっては分かりやすくプラクティカルだったと思います。私も多くのラボに参加してきましたが、黒沢監督の様に現役で世界的に活躍する監督と少人数でのマスタークラスは今までありませんでした。少人数での講義の方が普段聞けない様な話も聞けるので、今年のタレンツは羨ましい限りです。最後に黒沢監督が「皆さんが今まで積み上げてきた映画に対する考え方を信じていれさえすればいい」と仰っていたのが心に残りました。

そういう感じで無事終了した今年のタレンツ・トーキョーですが、今年のタレンツは日本には来れなかったものの、もしかしたら例年以上にいい経験になったのではないでしょうか。オンラインでの開催だったものの、タレンツみんなと交流できた実感があり、不思議な感覚です。

また来年が楽しみです。

IMAI Taro (Producer, 2018 Alumnus)
今井太郎(プロデューサー、2018年修了) 

高校卒業後渡米し、Los Angeles City Collegeで映画製作を専攻。帰国後、10年間一般企業にて勤めた後、大阪でharakiri filmsを立ち上げる。2016年にプロデュースした藤村明世監督の『見栄を張る』は国内外7カ国の映画祭で上映され、国内とタイで劇場公開された。その実績が評価され、Ties That Bind、Busan Asian Film School、Talents Tokyo、Rotterdam Lab、Asia Pacific Screen Lab、SEAFIC等、海外の若手プロデューサー向け国際共同製作ワークショップにも多数参加。最近は国内のみにとどまらず、海外の若手監督らともオリジナル作品の企画開発に注力している。

TT2020 修了生レポート 3

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポートを掲載しています。

今井太郎

タレンツ・トーキョー2020は早くも4日目、メインイベントのオープンプレゼンの日がやってきました。

1~3日目は私も少し覗き見させて頂いたのですが、初日の最初のプログラムとして実施された是枝裕和監督のマスタークラスが印象に残っています。是枝監督がタレンツに講義をするのではなく、タレンツからの質問に是枝監督が答えるという形式で行われました。是枝監督は各タレンツからの質問の本当の意図を何度も聞き直して理解し、じっくり考えて、真剣に、丁寧に答えてられました。覗き見していた私もこの質問の意味は何だろうと一緒に考え、是枝監督はどういう答えをするだろうと考え、そして是枝監督の答えについて深く考える時間をもらえたので、マスタークラスが終わった時は、いい映画を観た後の余韻の様に放心状態になっていました。この是枝監督の質疑応答のプロセスは映画作りにおいてもかなり重要だと思いますし、実際に是枝監督の作品に反映されているのかもしれません。これはタレンツにとって非常に貴重で刺激的な体験になったのではないでしょうか。

2日目は世界から注目を浴びるフィリピン人プロデューサーBianca Balbuenaの講義がありました。彼女の講義の素晴らしい点は、タレンツと同年代の彼女が、タレンツと同じ目線で教えてくれる事です。彼女の教える内容は他のワークショップでも教わる国際共同製作の基本ですが、自身の失敗談や今抱えている課題も交えて、タレンツの側に立って一緒に考えてくれます。ベテランのプロデューサーの講義の場合、理屈は理解できても実践するのは難しい事もあるのですが、彼女は経験のないプロデューサーにも分かりやすく、今の時代に沿ったやり方を提案してくれます。そして同年代で世界で活躍する彼女の話はみんなに希望を与えてくれると思います。

そして過去数日間、タレンツ達は今日のオープンプレゼンに向けて練習を重ねてきました。今年はどんなタレンツと出会えるのか、どんなプロジェクトがあるのか楽しみです。今日のオープンプレゼンに関しては、また数日後に報告させていただきます。

IMAI Taro (Producer, 2018 Alumnus)
今井太郎(プロデューサー、2018年修了) 

高校卒業後渡米し、Los Angeles City Collegeで映画製作を専攻。帰国後、10年間一般企業にて勤めた後、大阪でharakiri filmsを立ち上げる。2016年にプロデュースした藤村明世監督の『見栄を張る』は国内外7カ国の映画祭で上映され、国内とタイで劇場公開された。その実績が評価され、Ties That Bind、Busan Asian Film School、Talents Tokyo、Rotterdam Lab、Asia Pacific Screen Lab、SEAFIC等、海外の若手プロデューサー向け国際共同製作ワークショップにも多数参加。最近は国内のみにとどまらず、海外の若手監督らともオリジナル作品の企画開発に注力している。

TT2020 修了生レポート 2

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポート2を掲載しています。

今井太郎

初のオンライン開催となるタレンツトーキョーが今日から始まりました。

タレンツトーキョーのコアとなるプログラムは11月5日に開催されるオープン・プレゼンのトレーニングです。今年はオンラインで開催されますが、例年は数十名の聴衆の前でスライドを使いながら自分の企画をピッチします。

これは非常に難しいスキルなのですが、多くの企画マーケットに参加して感じたのは、才能のある監督やプロデューサーはピッチが非常にうまいという事です。例え素晴らしいアイデアがあったとしても、そして2時間の映画の素晴らしい脚本を書けたとしても、それを5分で説明するのは至難の技です。しかし、今、フィルメックスで上映されている様な素晴らしい作品の監督やプロデューサーは数多くのピッチをこなしてきたからこそ、多くの人の共感を得て映画が完成したのだと思います。

タレンツトーキョーではエキスパーツからのピッチのトレーニングがあり、更に入念なリハーサルもあります。正直言うとピッチに慣れるには数をこなすしかないと思います。私もピッチは非常に苦手で、2年前のタレンツトーキョーでは途中で頭が真っ白になり最後まで終了できませんでした。しかし失敗を繰り返した結果、徐々にスムーズにピッチができるようになってきました。

今年のタレンツはオンライン開催で不運だと思っているかも知れませんが、今年のエキスパーツは例年以上に豪華です。韓国のAsian Film Academy (AFA)創始者のパク・キヨン、ラヴ・ディアス監督『痛ましき謎への子守唄』で知られ、アジアを代表する若手プロデューサーのビアンカ・バルブエナ、アジアのアートハウス映画を世界に広める活躍をしているセールスエージェントのセバスティアン・シェスノ、ベルリナーレ・タレンツのフロリアン・ウェグホルン等、非常にエキサイティングな顔ぶれです。更に、マスタークラスのエキスパーツとして是枝裕和監督、黒沢清監督、篠崎誠監督が参加します。

今年のタレンツは中国、日本、台湾、ミャンマー、マレーシア、フィリピン、アメリカ、タイ、インドネシアから15人の監督とプロデューサーが集まっています。今日から6日間、彼らがどんな事を学んでいくのかフォローしていこうと思います。

IMAI Taro (Producer, 2018 Alumnus)
今井太郎(プロデューサー、2018年修了) 

高校卒業後渡米し、Los Angeles City Collegeで映画製作を専攻。帰国後、10年間一般企業にて勤めた後、大阪でharakiri filmsを立ち上げる。2016年にプロデュースした藤村明世監督の『見栄を張る』は国内外7カ国の映画祭で上映され、国内とタイで劇場公開された。その実績が評価され、Ties That Bind、Busan Asian Film School、Talents Tokyo、Rotterdam Lab、Asia Pacific Screen Lab、SEAFIC等、海外の若手プロデューサー向け国際共同製作ワークショップにも多数参加。最近は国内のみにとどまらず、海外の若手監督らともオリジナル作品の企画開発に注力している。

TT2020 修了生レポート 1

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポート1を掲載しています。

今井太郎

大阪で映画プロデューサーをしている今井太郎です。タレンツ・トーキョー(以下TT)の過去の修了生として、今回コラムを書かせて頂く事になりました。

今年もTTの季節がやってきましたが、皆さんご察知の通り、今年は例年とは違います。TTは東京フィルメックス期間中に開催されるアジアの監督やプロデューサー向けワークショップなのですが、今年はオンラインで開催される事になりました。そして例年11月下旬に開催されていたのですが、今年は東京フィルメックスが東京国際映画祭と並行して開催される事になり、TTも11月頭に実施される事になりました。東京国際映画祭との共催については来年以降、実際にタレンツ(参加者)が来日する場合にどういう取組ができるのか楽しみです。

オンライン開催はTTにとっては初の試みとなりますが、私は9月にSEAFIC x PASというタイ/フランス共催のワークショップにオンラインで参加しました。ZoomやGoogle Meetを使って実施されるわけですが、実地よりもオンラインの方が、より効率的で分かりやすい印象がありました。しかしながら、こういったワークショップの醍醐味は参加者同士の出会いであり、休憩時間に雑談したり、夜は一緒に食事したりして交流を深める事です。こういった違う国、言語、文化、宗教、価値観のフィルムメーカー達が交流を深めるという重要なポイントがオンラインでは弱いと感じました。

そこを何とかしようと、今回のTTのチームは頑張っています。例えばトレーニング・セッションと称して、会期前に何度かZoomでタレンツが集まり、コミュニケーションを取る場を設けています。また、会期中にはオンラインでのパーティーを企画しており、いかに実際に会った時のように交流を深められるか色々と考えています。

私はプロデューサーとしての実績はまだまだなのですが、Ties That Bind、Busan Asian Film School、TT、Rotterdam Lab、Asia Pacific Screen Lab、SEAFICというワークショップにはたくさん参加してきました。全てのプログラムで多くの事を学ばせていただき、多くの素晴らしい出会いがありましたが、TTの特徴を一言で言うと、タレンツとエキスパーツのレベルが非常に高いという事でしょうか。TT含めこれらのワークショップは基本的に若手監督、プロデューサー向けなのですが、TTには例えば今年はインドネシアのYulia Evina Bharaという近年大活躍しているプロデューサーがタレンツとして参加しています。エキスパーツはもちろんアジアのメンターとも言える市山尚三さんの存在が大きいのですが、今年は黒沢清監督のマスタークラスが実施されます。そういったハイレベルな1週間のプログラムの中で、お互い刺激しあい、結果としてTT修了生がベルリン、カンヌ、ベネチアといった世界の主要映画祭で活躍しているのだと実感します。

TTは日本人の監督やプロデューサーも、実績があってもなくてもチャレンジする価値のある素晴らしいプログラムです。しかし世界から注目されるTTの実際の魅力は何なのか?ぜひ皆さんにも11月5日のオープン・デーに参加して頂き体感して頂きたいですし、私も今年のプログラムを覗き見して探ってみたいと思います。

IMAI Taro (Producer, 2018 Alumnus)
今井太郎(プロデューサー、2018年修了) 

高校卒業後渡米し、Los Angeles City Collegeで映画製作を専攻。帰国後、10年間一般企業にて勤めた後、大阪でharakiri filmsを立ち上げる。2016年にプロデュースした藤村明世監督の『見栄を張る』は国内外7カ国の映画祭で上映され、国内とタイで劇場公開された。その実績が評価され、Ties That Bind、Busan Asian Film School、Talents Tokyo、Rotterdam

TT2019 OPEN CAMPUSレポート

2020.11

タレンツ・トーキョー恒例のOPEN CAMPUS。
通常は非公開のこの事業の様子がうかがえる貴重な日です。
ここでは、2019年のOPEN CAMPUSレポートをお届けします。

東京フィルメックスの会期中に開講される人材育成プログラム「タレンツトーキョー2019」のオープン・キャンパスが11月28日(金)、有楽町朝日ホール・スクエアBで開かれた。2010年に「ネクスト・マスターズ・トーキョー」の名称でスタートし、今年が10回目。節目の年にちなんで「私たちの10年」をテーマに歴代の修了生がタレンツでの経験について語り合った。

「タレンツトーキョー」は、東京都、アーツカウンシル東京、国際交流基金と東京フィルメックスが共催。2011年からは人材育成に実績のあるベルリン国際映画祭の「ベルリナーレ・タレンツ」とも提携し、東アジアと東南アジアの若手監督・プロデューサーを対象に、国際舞台で活躍するためのノウハウやネットワーク作りの機会を提供してきた。「エキスパート」と呼ばれる講師陣には、アッバス・キアロスタミ、ホウ・シャオシェン、ペドロ・コスタ、モフセン・マフマルバフ、ジャ・ジャンクー、黒沢清、是枝裕和、塚本晋也、諏訪敦彦ら世界の第一線で活躍する映画監督やプロデューサー、セールスエージェントらを招聘。1週間の日程で、アジア映画の歴史から国際共同製作の実情まで多彩なテーマの講義やワークショップを開講し、参加者たちの企画開発に助言する。

これまでの修了生は155人。第1期生のアンソニー・チェン監督(シンガポール)は、最優秀企画賞に選ばれたプロジェクトを『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013年)として実現させ、カンヌ国際映画祭新人賞など多数の映画賞を受賞した。ほかにも、『オー ルーシー!Oh Lucy!』の平栁敦子監督、『蜜蜂と遠雷』の石川啓監督、『マルリナの明日』のモーリー・スリヤ監督、『ロングデイズ・ジャーニー この世の涯へ』(2020年2月日本公開)を製作したシャン・ゾーロンさんら多数の修了生がプロとして巣立っている。

一般来場者を交えたオープンキャンパスでは、まず市山尚三ディレクターが創設から現在までの経緯や成果を説明し、修了生たちのビデオメッセージを上映した。ビデオには、今年のコンペティションで第2作「熱帯雨」が上映されたチェン監督や、昨年のコンペ作『幻土』のヨー・シュウホァ監督(シンガポール)、今年の東京国際映画祭アジアの未来部門で『モーテル・アカシア』をプレミア上映したブラッドリー・リュウ監督(マレーシア)とプロデューサーのビアンカ・バルブエナさん(タイ)らが登場し、それぞれの経験をもとに後輩にアドバイスを贈った。

映画関係者に企画を提案する「ピッチング」をタレンツで初めて体験したという人も多く、経験豊富なプロから直接手ほどきをうける機会は大きな刺激になったという。それ以上に、修了生たちがタレンツの収穫として熱く語ったのが、映画作りを志すアジアの仲間たちとの出会いだった。

チェン監督は「ここで知り合ったマレーシアのシャーロット・リムさんが『イロイロ』や『熱帯雨』で助監督を務めてくれた。セールスエージェントになったMemento Filmsのエミリー・ジョルジュさんも当時の企画コンペの審査員。少人数クラスなのでお互いをよく知ることができ、生涯の友人になれた。映画作りは孤独な作業ですが、アジア各地に友人ができ、将来的に様々なコラボレーションが可能になったと思います」と語った。『幻土』のヨウ監督も「タレンツの友人たちとはいまも交流が続いています。自分だけが孤独に映画を作っているんじゃない、他にも頑張っている人たちがいるのを知り、様々な面で助けられています」とコミュニティーの重要性を強調した。

タレンツは1週間の講義のほか、修了生を対象にした「ネクスト・マスターズ・サポート・プログラム(NMSP)」で企画開発や映画祭への渡航費用などの支援も展開している。

プロデュース作品がNMSPの支援対象に選ばれ、ベルリン、サンダンスなどで賞金を獲得したアーミ・レイ・カカニンディンさん(フィリピン)は、「フィリピンでは映画をすぐに完成させろという圧力が強いのですが、製作に入る前の企画開発こそが実は重要。NMSPのおかげでコンセプトやストーリーに磨きをかけ、様々な映画祭で資金をいただくこともできました」と話す。ラヴ・ディアス監督作品などを製作してきたバルブエナさんも、「東南アジア諸国では実際の製作ばかりが重視され、企画開発への関心が薄い。でも、いい映画の基礎はいい脚本。様々な映画祭で業界のプロに会って企画開発できるNMSPは本当にありがたい制度だと思います」。今年のNMSPに選ばれたスパッチャ・ティプセナさん(タイ)は、「様々な方の助言を受けて企画を改善し、同じ旅に加わる仲間も見つけられた。参加者の皆さんも、望み通りの体験ができえるよう祈っています」と語った。

続くトークの部では、ベルリナーレ・タレンツのプログラム・マネジャーのフロリアン・ウェグホルンさんが東京とベルリンの連携の意義を紹介。初の長編ドキュメンタリー『昨夜、あなたが微笑んでいた』を今年のコンペで上映したニアン・カヴィッチ監督(カンボジア)、木下雄介監督、今井太郎プロデューサーの修了生3人が登壇し、タレンツでの体験やその後のキャリアについて語り合った。

2016年に参加したニアン監督は、飛行機の出発時間を間違えて乗り遅れてしまったエピソードを紹介。「すごく恥ずかしかったけれど、せっかくのチャンスだから、1日遅れでもとにかく行こうと思いました。スーツケースを引きずって空港から会場に直行し、とにかく平謝り。皆さんの顔さえ見られない状態でしたが、許して下さる空気になり、今では何でも話せる関係に。みんなからは『乗り遅れたやつ』と呼ばれています」と笑わせた。

東京の宿舎でニアン監督のルームメイトだったのが木下監督。「企画の舞台にする予定だったホワイトビルディングがもうすぐ取り壊しになるんだと雄介に話し、その映像を見せたところ、『なんでこれをドキュメンタリーにしないの?』と言ってくれて。それで、帰国してから取り組んだドキュメンタリーが今回のコンペ作品です。彼の助言なしにこの映画は実現しなかった。本当に感謝しています」と意外な製作秘話を明かした。

一方、木下監督は、「映画作家は語ることがなければ映画を作る必要がないけれど、彼の映像には彼しか描けないストーリーが確かにあった。本当に驚きました」と振り返った。当時はぴあフィルムフェスティバル(PFF)のスカラシップ作品『水の花』(2006年)に続く長編第2作の脚本を執筆中。「ほかの監督たちとは離れたところでひとり孤独に脚本に集中していたのですが、PFFの荒木啓子ディレクターがタレンツのことを教えてくれた。ピッチングを見学し、参加しようと決めました」。その際に意気投合したプロデューサーと組んだ新作を来年台湾で撮影する予定。タレンツのイベントで出会った水野詠子プロデューサーの誘いでオムニバス映画『十年』の日本編にも参加した。「自分の作品に集中するのも大切ですが、人から刺激を受けると思わぬものが出て来る。企画の根幹は変わらないとしても、よりよいものに変わっていく」と出会いの重要性を語った。

昨年の修了生の今井プロューサーは、韓国の釜山アジア映画学校やアジア太平洋スクリーンラボなど海外の国際共同製作ワークショップにも積極的に参加してきた。釜山では半年かけてピッチングを学んだが、「人前で話すのはいまも苦手」。昨年のタレンツでも何を話せばいいのか忘れてしまい恥ずかしい思いをしたという。「でも、いいピッチをすると誰も質問をしないけれど、下手なピッチだとみんなが近寄って来て、いろいろ聞いてくれる。失敗してもいいんです。かっこよくできなくても、自分をさらけ出せばきっと興味をもってもらえます」と受講生たちを励ました。

質疑応答では、「企画の実現を待つ間は、どのように生活していますか?」「資金調達の道がひらけたきっかけは?」といった作り手ならではの切実な質問も。「何度もチャレンジしてようやく資金を獲得できた」といった体験談にうなずきながら聴き入っていた。

(文・深津純子、写真・明田川志保、王宏斌、白幡留美)

タレンツ・トーキョーとは

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトです(2010年にNext Masters Tokyoの名称で始まり、その後2013年までTalent Campus Tokyoの名称 で実施)。
Berlinale Talentsはベルリン映画祭で2003年に始まったプロジェクトで、完成作品を上映する映画祭が、映画のプロを目指す若者を集め、講義を受けたりネットワークの場を提供する機会としてはじめた事業です。TTはそのアジア版で、日本を含む、東アジア、東南アジアの方が参加できる6日間のワークショップです(*1)。参加者は、監督かプロデューサーを目指す若者ばかりで、5/15~6/15の間にオンライン上でエントリーをして、事前の審査で選ばれた15名だけが参加出来ます。

*1.日本を含む、東アジア、東南アジアの国と地域に居住する人、もしくはそれらの国の国籍を持つ人が対象です。

ここで、過去のTalents Tokyoの修了生のコメントとともに、TTってどんなところなのかご紹介しましょう。

» Q:TTってどんな人が参加するの? 先輩たちの動機を聞いてみました。
» Q:TTでは、どんなことが出来るか? 感想を聞いてみました。
» ポイント(1):一流のプロの講師による直接指導
» ポイント(2):仲間たちとの出会い
» ポイント(3):合宿で、固まる絆
» ポイント(4):公開プレゼンテーションで企画に磨きを
» ポイント(5):英語でセルフ・プロデュース
» ※修了生たちのコメント(全文)

Q:TTってどんな人が参加するの? 先輩たちの動機を聞いてみました。

・2010年のベルリンのタレント・キャンパスに参加したが、アジアからは参加者があまりいなくて、アジアでのネットワークを広げる機会が欲しかったので。 (三宅響子さん)

・(勤めていた製作会社を辞め)一人でゼロから始めるにはどうしたらいいのか、果たして可能なのか、と。それまで目が届かなかった各国映画祭の企画マーケットや、脚本開発・編集に対する助成の存在、若手監督・プロデューサーの人材育成や交流・ビジネスマッチングの場があることを知り始めた頃、"ベルリン・タレント・キャンパスのアジア版"を発見、絶対に参加したいと思いました。(曽我満寿美さん)

・自分はドキュメンタリーを作りたいのですが、そのプロジェクトを始める前にテレビ局または制作会社からのサポートを見つけたいと思いました。今後サポートを得るためには企画を出資者等の映画業界の人に紹介する必要があります。(梅若ソラヤさん)


Q:TTでは、どんなことが出来るか? 感想を聞いてみました。

・監督、プロデューサー、映画祭、セールスなど様々な分野の今まさに現場にいる方達が、同じく現場にいる者として我々参加者に話をしてくれるので、どれも非常に具体的・実践的な内容でした。
 また講師陣をはじめ、期間中は様々な映画関係者が常にオープンな姿勢でこちらの話に耳を傾けてくれます。(玄宇民さん)

INDEX – For Japanese Talents

2020.11

TT2020 修了生レポート 5

今年も海外のタレンツはすでに海外映画祭やワークショップの経験豊かな面々でした。社会的なテーマと聴衆の興味を引く問いかけ、映画の世界観をデザイナーに起こしてもらったムードボード、ワクワクするようなメンバーを世界各国から集めたチームの提案など、「この映画を今作る意義があるのだ」と他人に理解してもらうための説得力に強度がありました。……


TT2020 修了生レポート 4

今年のオープンプレゼンは初のオンライン開催という事で、タレンツがZoomでプレゼンし、その様子がYouTubeで全世界にライブ配信されました。これは真剣に共同プロデューサー、出資者、セールスエージェント、配給会社等、協力者を探しているタレンツにとって大変有意義な試みだと思います。実際に、YouTubeで見ていた海外の業界人から多くの反響があったようです。……


TT2020 修了生レポート 3

タレンツ・トーキョー2020は早くも4日目、メインイベントのオープンプレゼンの日がやってきました。 1〜3日目は私も少し覗き見させて頂いたのですが、初日の最初のプログラムとして実施された是枝裕和監督のマスタークラスが印象に残っています。是枝監督がタレンツに講義をするのではなく、タレンツからの質問に是枝監督が答えるという形式で行われました。是枝監督は各タレンツからの質問の本当の意図を何度も聞き直して理解し、じっくり考えて、真剣に、丁寧に答えてられました。……


TT2020 修了生レポート 2

初のオンライン開催となるタレンツトーキョーが今日から始まりました。 タレンツトーキョーのコアとなるプログラムは11月5日に開催されるオープン・プレゼンのトレーニングです。今年はオンラインで開催されますが、例年は数十名の聴衆の前でスライドを使いながら自分の企画をピッチします。……


TT2020 修了生レポート 1

大阪で映画プロデューサーをしている今井太郎です。タレンツ・トーキョー(以下TT)の過去の修了生として、今回コラムを書かせて頂く事になりました。 今年もTTの季節がやってきましたが、皆さんご察知の通り、今年は例年とは違います。……


TT2019 OPEN CAMPUSレポート

東京フィルメックスの会期中に開講される人材育成プログラム「タレンツトーキョー2019」のオープン・キャンパスが11月28日(金)、有楽町朝日ホール・スクエアBで開かれた。2010年に「ネクスト・マスターズ・トーキョー」の名称でスタートし、今年が10回目。節目の年にちなんで「私たちの10年」をテーマに歴代の修了生がタレンツでの経験について語り合った。……


タレンツ・トーキョーとは

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトです(2010年にNext Masters Tokyoの名称で始まり、その後2013年までTalent Campus Tokyoの名称 で実施)。 Berlinale Talentsはベルリン映画祭で2003年に始まったプロジェクトで、完成作品を上映する映画祭が、映画のプロを目指す若者を集め、講義を受けたりネットワークの場を提供する機会としてはじめた事業です。TTはそのアジア版で、日本を含む、東アジア、東南アジアの方が参加できる6日間のワークショップです(*1)。参加者は、監督かプロデューサーを目指す若者ばかりで、5/15~6/15の間にオンライン上でエントリーをして、事前の審査で選ばれた15名だけが参加出来ます。……