For Japanese Talents

TT2019 OPEN CAMPUSレポート

タレンツ・トーキョー恒例のOPEN CAMPUS。
通常は非公開のこの事業の様子がうかがえる貴重な日です。
ここでは、2019年のOPEN CAMPUSレポートをお届けします。

東京フィルメックスの会期中に開講される人材育成プログラム「タレンツトーキョー2019」のオープン・キャンパスが11月28日(金)、有楽町朝日ホール・スクエアBで開かれた。2010年に「ネクスト・マスターズ・トーキョー」の名称でスタートし、今年が10回目。節目の年にちなんで「私たちの10年」をテーマに歴代の修了生がタレンツでの経験について語り合った。

「タレンツトーキョー」は、東京都、アーツカウンシル東京、国際交流基金と東京フィルメックスが共催。2011年からは人材育成に実績のあるベルリン国際映画祭の「ベルリナーレ・タレンツ」とも提携し、東アジアと東南アジアの若手監督・プロデューサーを対象に、国際舞台で活躍するためのノウハウやネットワーク作りの機会を提供してきた。「エキスパート」と呼ばれる講師陣には、アッバス・キアロスタミ、ホウ・シャオシェン、ペドロ・コスタ、モフセン・マフマルバフ、ジャ・ジャンクー、黒沢清、是枝裕和、塚本晋也、諏訪敦彦ら世界の第一線で活躍する映画監督やプロデューサー、セールスエージェントらを招聘。1週間の日程で、アジア映画の歴史から国際共同製作の実情まで多彩なテーマの講義やワークショップを開講し、参加者たちの企画開発に助言する。

これまでの修了生は155人。第1期生のアンソニー・チェン監督(シンガポール)は、最優秀企画賞に選ばれたプロジェクトを『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013年)として実現させ、カンヌ国際映画祭新人賞など多数の映画賞を受賞した。ほかにも、『オー ルーシー!Oh Lucy!』の平栁敦子監督、『蜜蜂と遠雷』の石川啓監督、『マルリナの明日』のモーリー・スリヤ監督、『ロングデイズ・ジャーニー この世の涯へ』(2020年2月日本公開)を製作したシャン・ゾーロンさんら多数の修了生がプロとして巣立っている。

一般来場者を交えたオープンキャンパスでは、まず市山尚三ディレクターが創設から現在までの経緯や成果を説明し、修了生たちのビデオメッセージを上映した。ビデオには、今年のコンペティションで第2作「熱帯雨」が上映されたチェン監督や、昨年のコンペ作『幻土』のヨー・シュウホァ監督(シンガポール)、今年の東京国際映画祭アジアの未来部門で『モーテル・アカシア』をプレミア上映したブラッドリー・リュウ監督(マレーシア)とプロデューサーのビアンカ・バルブエナさん(タイ)らが登場し、それぞれの経験をもとに後輩にアドバイスを贈った。

映画関係者に企画を提案する「ピッチング」をタレンツで初めて体験したという人も多く、経験豊富なプロから直接手ほどきをうける機会は大きな刺激になったという。それ以上に、修了生たちがタレンツの収穫として熱く語ったのが、映画作りを志すアジアの仲間たちとの出会いだった。

チェン監督は「ここで知り合ったマレーシアのシャーロット・リムさんが『イロイロ』や『熱帯雨』で助監督を務めてくれた。セールスエージェントになったMemento Filmsのエミリー・ジョルジュさんも当時の企画コンペの審査員。少人数クラスなのでお互いをよく知ることができ、生涯の友人になれた。映画作りは孤独な作業ですが、アジア各地に友人ができ、将来的に様々なコラボレーションが可能になったと思います」と語った。『幻土』のヨウ監督も「タレンツの友人たちとはいまも交流が続いています。自分だけが孤独に映画を作っているんじゃない、他にも頑張っている人たちがいるのを知り、様々な面で助けられています」とコミュニティーの重要性を強調した。

タレンツは1週間の講義のほか、修了生を対象にした「ネクスト・マスターズ・サポート・プログラム(NMSP)」で企画開発や映画祭への渡航費用などの支援も展開している。

プロデュース作品がNMSPの支援対象に選ばれ、ベルリン、サンダンスなどで賞金を獲得したアーミ・レイ・カカニンディンさん(フィリピン)は、「フィリピンでは映画をすぐに完成させろという圧力が強いのですが、製作に入る前の企画開発こそが実は重要。NMSPのおかげでコンセプトやストーリーに磨きをかけ、様々な映画祭で資金をいただくこともできました」と話す。ラヴ・ディアス監督作品などを製作してきたバルブエナさんも、「東南アジア諸国では実際の製作ばかりが重視され、企画開発への関心が薄い。でも、いい映画の基礎はいい脚本。様々な映画祭で業界のプロに会って企画開発できるNMSPは本当にありがたい制度だと思います」。今年のNMSPに選ばれたスパッチャ・ティプセナさん(タイ)は、「様々な方の助言を受けて企画を改善し、同じ旅に加わる仲間も見つけられた。参加者の皆さんも、望み通りの体験ができえるよう祈っています」と語った。

続くトークの部では、ベルリナーレ・タレンツのプログラム・マネジャーのフロリアン・ウェグホルンさんが東京とベルリンの連携の意義を紹介。初の長編ドキュメンタリー『昨夜、あなたが微笑んでいた』を今年のコンペで上映したニアン・カヴィッチ監督(カンボジア)、木下雄介監督、今井太郎プロデューサーの修了生3人が登壇し、タレンツでの体験やその後のキャリアについて語り合った。

2016年に参加したニアン監督は、飛行機の出発時間を間違えて乗り遅れてしまったエピソードを紹介。「すごく恥ずかしかったけれど、せっかくのチャンスだから、1日遅れでもとにかく行こうと思いました。スーツケースを引きずって空港から会場に直行し、とにかく平謝り。皆さんの顔さえ見られない状態でしたが、許して下さる空気になり、今では何でも話せる関係に。みんなからは『乗り遅れたやつ』と呼ばれています」と笑わせた。

東京の宿舎でニアン監督のルームメイトだったのが木下監督。「企画の舞台にする予定だったホワイトビルディングがもうすぐ取り壊しになるんだと雄介に話し、その映像を見せたところ、『なんでこれをドキュメンタリーにしないの?』と言ってくれて。それで、帰国してから取り組んだドキュメンタリーが今回のコンペ作品です。彼の助言なしにこの映画は実現しなかった。本当に感謝しています」と意外な製作秘話を明かした。

一方、木下監督は、「映画作家は語ることがなければ映画を作る必要がないけれど、彼の映像には彼しか描けないストーリーが確かにあった。本当に驚きました」と振り返った。当時はぴあフィルムフェスティバル(PFF)のスカラシップ作品『水の花』(2006年)に続く長編第2作の脚本を執筆中。「ほかの監督たちとは離れたところでひとり孤独に脚本に集中していたのですが、PFFの荒木啓子ディレクターがタレンツのことを教えてくれた。ピッチングを見学し、参加しようと決めました」。その際に意気投合したプロデューサーと組んだ新作を来年台湾で撮影する予定。タレンツのイベントで出会った水野詠子プロデューサーの誘いでオムニバス映画『十年』の日本編にも参加した。「自分の作品に集中するのも大切ですが、人から刺激を受けると思わぬものが出て来る。企画の根幹は変わらないとしても、よりよいものに変わっていく」と出会いの重要性を語った。

昨年の修了生の今井プロューサーは、韓国の釜山アジア映画学校やアジア太平洋スクリーンラボなど海外の国際共同製作ワークショップにも積極的に参加してきた。釜山では半年かけてピッチングを学んだが、「人前で話すのはいまも苦手」。昨年のタレンツでも何を話せばいいのか忘れてしまい恥ずかしい思いをしたという。「でも、いいピッチをすると誰も質問をしないけれど、下手なピッチだとみんなが近寄って来て、いろいろ聞いてくれる。失敗してもいいんです。かっこよくできなくても、自分をさらけ出せばきっと興味をもってもらえます」と受講生たちを励ました。

質疑応答では、「企画の実現を待つ間は、どのように生活していますか?」「資金調達の道がひらけたきっかけは?」といった作り手ならではの切実な質問も。「何度もチャレンジしてようやく資金を獲得できた」といった体験談にうなずきながら聴き入っていた。

(文・深津純子、写真・明田川志保、王宏斌、白幡留美)