修了生レポート

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TT2021 修了生レポート 5

2021.11

今年のTOKYO FILMeXで上映された「White Building」の監督Neang KavichがTalents Tokyo卒業生として講義をするにあたって、モデレーターを務めた。私が見た同期Kavichによる2016年Talents Tokyoを経て、前作「Last Night I Saw You Smiling」から「White Building」制作までの過程を共有できたらと思います。

彼との出会いは2016年のTalents Tokyo、私は初めて参加する国際共同制作のワークショップに気持ち昂ぶる中、飛行機に乗り遅れたカンボジアの監督Neang Kavichが初日を欠席するとのアナウンスがあった。2日目の講義の途中にはにかみながら現れたKavichと同部屋で寝食を共にしすっかり意気投合し、私たちは互いの映画について話すようになった。

彼が企画していた劇映画は、解体されることが決まった巨大市営アパートWhite Buildingに住む若者たちの青春群像劇。White Buildingはクメール・ルージュを乗り越えた歴史的建造物であり、500組を超える家族が生活している。Kavichは父の代から住んでいたが、日本主導の急激な再開発で取り壊される予定だった。

Kavichが自身で撮りためていたピッチング用の映像を見せてもらうと、Kavichは、喪失の中で生きる家族と隣人を通して、大きな暴力とその元で生きる人々をしかとまなざしていて、どんなピッチングの言葉よりも強く説得力があった。

その後も映画祭で親睦を深めていったある日、Kavichの友人でアソシエイトプロデューサーを務めるSteve CHENからWhite Buildingの取り壊しが早まったと聞き、難航する劇映画の進捗を待たずに、とにかく目の前を撮ることを応援した。おそらく当初は映画になるかもわからなかったであろうKavichは自身のために撮った50時間の映像を編集してできたのが、ドキュメンタリー映画「Last Night I Saw You Smiling」で、ロッテルダム映画祭でプレミア、2019年のTOKYO FILMeXで上映された。

またTalents Tokyoでの劇映画の企画は並行して進められ、「White Building」として彼の記憶は昇華された。今年のヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でプレミアされ俳優賞を受賞した。

今年のTalents Tokyoの講義では、KavichのチームAnti Archiveを核に、プロデューサーのジャ・ジャンクー、フランスの編集技師やカラリストが参加した国際共同制作の体制やファンドの話も詳細にあり、コロナ禍で意見を交換する機会が失われている中、オンラインにも関わらず参加者から多くの質問が上がった。

今年はモデレーターとしての参加であったが、自分なりの発見になったのが、「White Building」で描かれる暴力の存在とその描かれ方だ。

ダンサーを志す青年は、立退きの進む建物の中で、夢を見ることさえもできず青春の終わりを迎え、病に冒されながらも住民を代表して政府と戦う父親が足の切断を迫られる状況を止めることができない。

前作のドキュメンタリーでは残酷な破壊の風景が捉えられていたが、今作の劇映画では破壊を前に周囲もろともじわじわと心底を蝕んでいく澱みが描かれる。厳しい現実に対し漂う主人公は、ともすれば受動的にも見えたが、Talents Tokyoのアジアのフィルムメイカーの間では、圧倒的な暴力の状況下に生きる現代のやるせない実感として共感があった。

Talents

TT2021 修了生レポート 4

2021.11

TT2021レポート Meet the Expert: Kathi BILDHAUER

Talents Tokyo 2018修了生の今井太郎です。今年もTalents Tokyoのレポートを一部書かせて頂く事になりました。
今回、私が参加させて頂いたのは「Meet the Expert: Kathi BILDHAUER」というプログラムです。KathiさんはBerlinale TalentsのジョイントプログラムであるTalent Project Marketの責任者で、今回はTalent Project Marketや国際共同製作について話してくれました。Berlinale Talentsとはベルリン映画祭期間中に開催される若手フィルムメーカー向けのワークショップで、Talents TokyoはBerlinale Talentsの姉妹プログラムとなっています。そのBerlinale Talents参加者で企画を提出したプロデューサーや監督の中から、Berlinale Co-Production Marketで企画をピッチする機会を与えられるのがTalents Project Marketです。

インドネシアのプロデューサーでTalents Tokyo 2020修了生のYulia Evina Bharaさんもゲストとして国際共同製作の経験を話してくれました。

Talentsの皆さんはTalent Project Marketや他のマーケットでどうやって信頼できるパートナーを見つけるのかという部分に興味があったようです。Yuliaさんはコロナ禍の中でも、WhatsApp等で東南アジアのフィルムメーカー達と連絡を取り合い、情報交換を続けて信頼関係を築いていると言っていたのが印象的でした。

また、日本の企画がヨーロッパと共同製作するのが難しいと言う話題にもなり、私やTalentsの参加者が政府に働きかけたりして、声をあげて変えていくべきだと励ましてくれました。

Talents Project Marketや他のマーケットもコロナで形態が変わってきており、今後もリモートとリアルのハイブリッド形式のマーケットが続きそうです。

TT2021 修了生レポート 3

2021.11

今年のTalents Tokyo 2021は11月6日(土)をもって全プログラムが終了しました。オープン・デイでの公開プレゼンテーションを無事に終え、タレンツたちはリラックスした表情で残りのワークショップを受講していました。今回の最後のレポートでは実際にタレンツたちがどのような講義に参加していたのか紹介していきたいと思います。

まず、11月4日(木)に開催されたTalents Tokyo 2021オープン・デイでは、S E A F I Cのエグゼクティヴ・ディレクターでもあるレイモンド・パッタナーウィラクーンさんのオープン・キャンパスに参加しました。講義の内容は「東アジアと東南アジアの映画共同制作。」国際共同制作とは一体どういうものなのか、またコロナウィルスがいかに映画産業に影響を与え、様々なVODサービスが浸透する中、どうやって若いフィルムメイカーたちがもっと世界へ羽ばたき、たくさんの観客に見てもらえるチャンスを獲得することができるのか。私自身もこの講義を聴きながら、いかに現実がシビアになっているのかを実感したのと同時に、Talents Tokyoの修了生同士で多くの共同制作が行われていることを知り、「それでもまだやれることはある」とモチベーションに繋げることができました。このような国際共同制作について学べることはTalents Tokyoで得る大きな恩恵の一つだと私は思っています。私自身ワークショップに参加する前は「国際共同制作」で実際にどのようなプロセスを経て、どのようなメリットとデメリットがあるのかを全く知りませんでした。他のタレンツたちや講師たちから日本の外でどのような映画制作が行われているのかを知ることができる貴重な機会でもあります。

そして、5日(金)には諏訪敦彦監督によるマスタークラスも行われました。諏訪監督の長編第一作目『2/デュオ』の制作時のお話を基に、自分の直感や違和感がいかに自分の持つ世界に対する感覚につながっているのか、そしてその直感や違和感をこれから大切にしてほしいと仰っていたことが心に残りました。また、最終日には今年の東京フィルメックスにて『ホワイト・ビルディング』が上映されたニアン・カヴィッチ監督との講義も実施されました。2016年のTalents Tokyo修了生でもある監督から、Talents Tokyo参加後、実際にどのような制作過程を経たのかを伺うことで、タレンツたちにとって非常に実用的なアドバイスとなったのではないでしょうか。

Talents Tokyo2021のワークショップは終了しましたが、6日間の濃密な講義を経て学んだこと、小さな画面を通して出会ったタレンツたちとの交流はこれからも続いていきます。そしていつか直接会える日を楽しみにしながら、自分自身の企画に向き合うことを大切にしていきたいと改めて思いました。

文:北川未来(TT2020)…

TT2021 修了生レポート 2

2021.11

11月4日(木)にTalents Tokyo 2021のオープンデイが開催されました。オープンデイは6日間のワークショップのメインイベントであり、今年はS E A F I Cのエグゼクティヴ・ディレクターでもあるレイモンド・パッタナーウィラクーンさんの講義、そして15名のタレンツたちによる公開プレゼンテーションが実施されました。

タレンツたちは温めてきた企画を発表するために、ワークショップ期間中に何度もプレゼンのトレーニングやリハーサルを行います。私も昨年参加したのですが、短い時間で自分の企画を端的にそして魅力的にプレゼンすることは非常に難しく、時には自分のスキルの無さに落ち込むこともありました。しかし不思議なことにトレーニングを繰り返していくうちに、「自分がこの企画でやりたいことは何なのか」「自分が一番伝えたいことは何なのか」頭の中で靄がかかっていたものが、徐々にクリアになっていく感覚になっていきました。プレゼンは他の人たちに自分の企画を伝えるものだけでなく、自分自身に自分の企画を整理して説明し直す機会なのだと発見することができました。

今年の15名のタレンツたちの企画も非常に多様性に満ちており、聞いていてワクワクするものばかりでした。そしてそのプレゼンの方法も千差万別です。写真やムードボードを見せながら映画のトーンを伝えるタレンツもいれば、シンプルに言葉のみで物語と自分の想いを伝えるタレンツたちもいます。前日のリハーサルも拝見したのですが、緊張感がある中、お互いのプレゼンをフィードバックし合い、短期間の中で同じ目標に向かって切磋琢磨することでタレンツたちの距離がより縮まっていくのだと思いました。

話は少し変わりますが、Talents Tokyoのワークショップは全て英語で行われ、そしてこの公開プレゼンテーションも英語での発表が求められます。私は英語を第2言語として話しているので、英語でプレゼンすることは決して簡単なものではありませんでした。そして多くの他のタレンツたちも英語を第2言語として話しています。リハーサルの際にエキスパートの一人、フロリアン・ウェグホルンさんがこんなことを話す場面がありました。「私たちは正しい英語ではなく、あなたの英語を聞きたいのです。」第2言語としての英語を使いながらプレゼンすることは非常にチャレンジングですが、一番大切なことはプロジェクトに対する想いであり、その想いがあれば言語を超えて伝わるものがあるのだと今回の15名のタレンツたちのプレゼンテーションを聞いて改めて実感しました。

文:北川未来(TT2020)…

TT2021 修了生レポート 1

2021.11

東京で映画制作をしております、北川未来です。昨年のTalents Tokyo 2020に参加させていただき、今年は修了生としてTalents Tokyo 2021のレポートを書かせていただくことになりました。

Talents Tokyoとは東京FILMeX期間中に開催されるワークショップであり、毎年15名ほどのアジアの若手映画監督・プロデューサーたちが参加します。ワークショップの内容は世界で活躍する様々な監督・プロデューサーたちの講義や、参加者が各々の企画を業界に向けてプレゼンする機会が設けられています。

私は昨年のTalents Tokyoに参加させて頂いたのですが、昨年そして今年も例年とは違い、オンラインでの開催となりました。私はこのような企画開発型のワークショップに参加すること自体が初めてだったので、参加できることが嬉しかったのと同時に「オンライン上でみんなと仲良くなれるのだろうか・・・」という不安もありました。講義やプレゼン以外の時間を他のタレンツ(参加者)たちと共有し、タレンツ同士の距離を縮めることがオンラインでは難しいのではないかと思っていたからです。

しかしながら、実際に参加してみると、対面であってもオンラインであっても、各々の企画に対する想い、そして映画に対する想いというのは画面を通じて伝わるものなのだと実感しました。各々の企画を発表、共有することで、そのタレンツ自身を知っていく、そのような感覚になることができました。また、部屋の片隅にある本棚、風に揺れるカーテン、遊びに来る子供たちやペットの猫など、小さな画面の中に垣間見えるタレンツたちの私生活にほっこりすることもオンラインだからこその体験です。そんな濃密な6日間を一緒に過ごしたタレンツたちとは今でも連絡を取り合い、いつか必ずみんなで会おうと約束をしています。

そして今年のTalents Tokyo 2021のメインイベント、オープンデイが11月4日(木)に開催されます。S E A F I Cのエグゼクティヴ・ディレクターでもあるレイモンド・パッタナーウィラクーンさんの講義をはじめ、タレンツたちによる公開プレゼンテーションも実施されます。今年のタレンツたちは一体どんな企画を温めているのか、ぜひ多くの方に見ていただきたいのと同時に、私自身もとても楽しみにしています。 …

TT2020 修了生レポート 5

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポートを掲載しています。

木下雄介

Talents Tokyoでは、アジアの監督・プロデューサーである15人のタレンツたちが、エキスパーツと各々の企画を詰めるグループセッションを経て、5分のピッチング+5分のQ&Aで自身の企画を映画関係者に向けて発表するオープン・プレゼンが主となります。

今年も海外のタレンツはすでに海外映画祭やワークショップの経験豊かな面々でした。社会的なテーマと聴衆の興味を引く問いかけ、映画の世界観をデザイナーに起こしてもらったムードボード、ワクワクするようなメンバーを世界各国から集めたチームの提案など、「この映画を今作る意義があるのだ」と他人に理解してもらうための説得力に強度がありました。

以前、自分が参加した際に感じたのは、個人的な問題に対する目線から描かれた繊細さにこだわるだけでは、いくら思いを伝えても、文化歴史が違う国の共通理解のない他者にはよくわかってもらえない。その個人の物語の背景にある社会や時代も徹底的に掘り下げること。また海外の同世代の映画人との関わりの中で、その物語を外から見たときにどういう意味を持つのか、客観的な視点を鋭くすることが大事だと思いつつ、今も勉強は続いています。

今年はオンラインでの開催となりましたが、タレンツ達はコロナによる外出自粛下でも、自分の映画企画を話し合える喜びを語っていて、今集う意義を感じました。それと同時に、オンラインではどうしても人と直接会った際に五感で掴む情報量が欠落します。特にオープン・プレゼンでは、普段部屋いっぱいになる聴き手の顔が見えず、タレンツには自分と同じものを見て聞いているか不安が付きまといます。主催の日本人の聴き手にできることといえば、いつにも増して自分の意図を明確に主張する・他人のために差し出していくことであり、その根っこは映画祭で行われるコミュニケーションと変わらないと思いました。

アジアは近いです。壁に囲まれた部屋からであろうと、同じ星の下にいる想像力が喚起されました。

KINOSHITA Yusuke (Director, 2016 Alumnus)
木下雄介(監督、2016年修了)

1981年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。監督・脚本・撮影・編集した自主映画『鳥籠』(02)がぴあフィルムフェスティバルにて準グランプリと観客賞を受賞。第15回PFFスカラシップとなる初長編映画『水の花』(06)がベルリン国際映画祭に出品される。その後短編映画『NOTHING UNUSUAL』(12)を発表。
最新作は是枝裕和総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(18)の一編『いたずら同盟』。香港で製作された『十年』(15)を元に、日本・タイ・台湾の映像作家がそれぞれの国の10年後を描いた国際共同プロジェクトに参加。日本版の『十年Ten Years Japan』は釜山国際映画祭に出品され国内外で劇場公開された。

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2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポートを掲載しています。

今井太郎

少し間隔が開いてしまいましたが、タレンツ・トーキョーは11月7日に無事終了しました。

まず、11月5日に開催されたオープンプレゼンについて。今年のオープンプレゼンは初のオンライン開催という事で、タレンツがZoomでプレゼンし、その様子がYouTubeで全世界にライブ配信されました。これは真剣に共同プロデューサー、出資者、セールスエージェント、配給会社等、協力者を探しているタレンツにとって大変有意義な試みだと思います。実際に、YouTubeで見ていた海外の業界人から多くの反響があったようです。

各タレンツの企画は例年同様、ハイレベルなものばかりで、私も関わる事ができたらいいなと思う企画がいくつかありました。そしてタレンツ・トーキョー・アワード2020はチア・チーサム監督の「Oasis of Now」、スペシャル・メンションはネリシャ・ロー監督の「Pierce」と北川未来監督の「KANAKO」が受賞しました。受賞者の皆さん、おめでとうございます!しかしプレゼンの目的は賞を取る事だけではなく企画を進める事だと思うので、タレンツ全員にとって有意義なプレゼンになった事と思います。

コロナ禍の中、世界中で撮影は停滞していますが、新しい企画への需要は高まっています。そして様々な記事で見るように、今アジアが世界から注目されています。私にもFacebookで海外の友人からプレゼンについて連絡があったり、タレンツにとっても、業界の人たちにとっても盛り上がったイベントになった様です。

そして最終日には黒沢清監督のマスタークラスが開催されました。黒沢清監督は是枝裕和監督と並び日本を代表する監督ですが、二人のワークショップは対照的であった事が印象に残りました。黒沢監督の考え方はより現実的で、質疑応答の答えもより具合的だったので、タレンツにとっては分かりやすくプラクティカルだったと思います。私も多くのラボに参加してきましたが、黒沢監督の様に現役で世界的に活躍する監督と少人数でのマスタークラスは今までありませんでした。少人数での講義の方が普段聞けない様な話も聞けるので、今年のタレンツは羨ましい限りです。最後に黒沢監督が「皆さんが今まで積み上げてきた映画に対する考え方を信じていれさえすればいい」と仰っていたのが心に残りました。

そういう感じで無事終了した今年のタレンツ・トーキョーですが、今年のタレンツは日本には来れなかったものの、もしかしたら例年以上にいい経験になったのではないでしょうか。オンラインでの開催だったものの、タレンツみんなと交流できた実感があり、不思議な感覚です。

また来年が楽しみです。

IMAI Taro (Producer, 2018 Alumnus)
今井太郎(プロデューサー、2018年修了) 

高校卒業後渡米し、Los Angeles City Collegeで映画製作を専攻。帰国後、10年間一般企業にて勤めた後、大阪でharakiri filmsを立ち上げる。2016年にプロデュースした藤村明世監督の『見栄を張る』は国内外7カ国の映画祭で上映され、国内とタイで劇場公開された。その実績が評価され、Ties That Bind、Busan Asian Film School、Talents Tokyo、Rotterdam Lab、Asia Pacific Screen Lab、SEAFIC等、海外の若手プロデューサー向け国際共同製作ワークショップにも多数参加。最近は国内のみにとどまらず、海外の若手監督らともオリジナル作品の企画開発に注力している。

TT2020 修了生レポート 3

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポートを掲載しています。

今井太郎

タレンツ・トーキョー2020は早くも4日目、メインイベントのオープンプレゼンの日がやってきました。

1~3日目は私も少し覗き見させて頂いたのですが、初日の最初のプログラムとして実施された是枝裕和監督のマスタークラスが印象に残っています。是枝監督がタレンツに講義をするのではなく、タレンツからの質問に是枝監督が答えるという形式で行われました。是枝監督は各タレンツからの質問の本当の意図を何度も聞き直して理解し、じっくり考えて、真剣に、丁寧に答えてられました。覗き見していた私もこの質問の意味は何だろうと一緒に考え、是枝監督はどういう答えをするだろうと考え、そして是枝監督の答えについて深く考える時間をもらえたので、マスタークラスが終わった時は、いい映画を観た後の余韻の様に放心状態になっていました。この是枝監督の質疑応答のプロセスは映画作りにおいてもかなり重要だと思いますし、実際に是枝監督の作品に反映されているのかもしれません。これはタレンツにとって非常に貴重で刺激的な体験になったのではないでしょうか。

2日目は世界から注目を浴びるフィリピン人プロデューサーBianca Balbuenaの講義がありました。彼女の講義の素晴らしい点は、タレンツと同年代の彼女が、タレンツと同じ目線で教えてくれる事です。彼女の教える内容は他のワークショップでも教わる国際共同製作の基本ですが、自身の失敗談や今抱えている課題も交えて、タレンツの側に立って一緒に考えてくれます。ベテランのプロデューサーの講義の場合、理屈は理解できても実践するのは難しい事もあるのですが、彼女は経験のないプロデューサーにも分かりやすく、今の時代に沿ったやり方を提案してくれます。そして同年代で世界で活躍する彼女の話はみんなに希望を与えてくれると思います。

そして過去数日間、タレンツ達は今日のオープンプレゼンに向けて練習を重ねてきました。今年はどんなタレンツと出会えるのか、どんなプロジェクトがあるのか楽しみです。今日のオープンプレゼンに関しては、また数日後に報告させていただきます。

IMAI Taro (Producer, 2018 Alumnus)
今井太郎(プロデューサー、2018年修了) 

高校卒業後渡米し、Los Angeles City Collegeで映画製作を専攻。帰国後、10年間一般企業にて勤めた後、大阪でharakiri filmsを立ち上げる。2016年にプロデュースした藤村明世監督の『見栄を張る』は国内外7カ国の映画祭で上映され、国内とタイで劇場公開された。その実績が評価され、Ties That Bind、Busan Asian Film School、Talents Tokyo、Rotterdam Lab、Asia Pacific Screen Lab、SEAFIC等、海外の若手プロデューサー向け国際共同製作ワークショップにも多数参加。最近は国内のみにとどまらず、海外の若手監督らともオリジナル作品の企画開発に注力している。

TT2020 修了生レポート 2

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポート2を掲載しています。

今井太郎

初のオンライン開催となるタレンツトーキョーが今日から始まりました。

タレンツトーキョーのコアとなるプログラムは11月5日に開催されるオープン・プレゼンのトレーニングです。今年はオンラインで開催されますが、例年は数十名の聴衆の前でスライドを使いながら自分の企画をピッチします。

これは非常に難しいスキルなのですが、多くの企画マーケットに参加して感じたのは、才能のある監督やプロデューサーはピッチが非常にうまいという事です。例え素晴らしいアイデアがあったとしても、そして2時間の映画の素晴らしい脚本を書けたとしても、それを5分で説明するのは至難の技です。しかし、今、フィルメックスで上映されている様な素晴らしい作品の監督やプロデューサーは数多くのピッチをこなしてきたからこそ、多くの人の共感を得て映画が完成したのだと思います。

タレンツトーキョーではエキスパーツからのピッチのトレーニングがあり、更に入念なリハーサルもあります。正直言うとピッチに慣れるには数をこなすしかないと思います。私もピッチは非常に苦手で、2年前のタレンツトーキョーでは途中で頭が真っ白になり最後まで終了できませんでした。しかし失敗を繰り返した結果、徐々にスムーズにピッチができるようになってきました。

今年のタレンツはオンライン開催で不運だと思っているかも知れませんが、今年のエキスパーツは例年以上に豪華です。韓国のAsian Film Academy (AFA)創始者のパク・キヨン、ラヴ・ディアス監督『痛ましき謎への子守唄』で知られ、アジアを代表する若手プロデューサーのビアンカ・バルブエナ、アジアのアートハウス映画を世界に広める活躍をしているセールスエージェントのセバスティアン・シェスノ、ベルリナーレ・タレンツのフロリアン・ウェグホルン等、非常にエキサイティングな顔ぶれです。更に、マスタークラスのエキスパーツとして是枝裕和監督、黒沢清監督、篠崎誠監督が参加します。

今年のタレンツは中国、日本、台湾、ミャンマー、マレーシア、フィリピン、アメリカ、タイ、インドネシアから15人の監督とプロデューサーが集まっています。今日から6日間、彼らがどんな事を学んでいくのかフォローしていこうと思います。

IMAI Taro (Producer, 2018 Alumnus)
今井太郎(プロデューサー、2018年修了) 

高校卒業後渡米し、Los Angeles City Collegeで映画製作を専攻。帰国後、10年間一般企業にて勤めた後、大阪でharakiri filmsを立ち上げる。2016年にプロデュースした藤村明世監督の『見栄を張る』は国内外7カ国の映画祭で上映され、国内とタイで劇場公開された。その実績が評価され、Ties That Bind、Busan Asian Film School、Talents Tokyo、Rotterdam Lab、Asia Pacific Screen Lab、SEAFIC等、海外の若手プロデューサー向け国際共同製作ワークショップにも多数参加。最近は国内のみにとどまらず、海外の若手監督らともオリジナル作品の企画開発に注力している。

TT2020 修了生レポート 1

2020.11

Talents Tokyo(TT)は、東京都などが主催する映画の人材育成プロジェクトで、2010年に始まりました。今年のTTはどのように開催されるのか。修了生による体験談レポート1を掲載しています。

今井太郎

大阪で映画プロデューサーをしている今井太郎です。タレンツ・トーキョー(以下TT)の過去の修了生として、今回コラムを書かせて頂く事になりました。

今年もTTの季節がやってきましたが、皆さんご察知の通り、今年は例年とは違います。TTは東京フィルメックス期間中に開催されるアジアの監督やプロデューサー向けワークショップなのですが、今年はオンラインで開催される事になりました。そして例年11月下旬に開催されていたのですが、今年は東京フィルメックスが東京国際映画祭と並行して開催される事になり、TTも11月頭に実施される事になりました。東京国際映画祭との共催については来年以降、実際にタレンツ(参加者)が来日する場合にどういう取組ができるのか楽しみです。

オンライン開催はTTにとっては初の試みとなりますが、私は9月にSEAFIC x PASというタイ/フランス共催のワークショップにオンラインで参加しました。ZoomやGoogle Meetを使って実施されるわけですが、実地よりもオンラインの方が、より効率的で分かりやすい印象がありました。しかしながら、こういったワークショップの醍醐味は参加者同士の出会いであり、休憩時間に雑談したり、夜は一緒に食事したりして交流を深める事です。こういった違う国、言語、文化、宗教、価値観のフィルムメーカー達が交流を深めるという重要なポイントがオンラインでは弱いと感じました。

そこを何とかしようと、今回のTTのチームは頑張っています。例えばトレーニング・セッションと称して、会期前に何度かZoomでタレンツが集まり、コミュニケーションを取る場を設けています。また、会期中にはオンラインでのパーティーを企画しており、いかに実際に会った時のように交流を深められるか色々と考えています。

私はプロデューサーとしての実績はまだまだなのですが、Ties That Bind、Busan Asian Film School、TT、Rotterdam Lab、Asia Pacific Screen Lab、SEAFICというワークショップにはたくさん参加してきました。全てのプログラムで多くの事を学ばせていただき、多くの素晴らしい出会いがありましたが、TTの特徴を一言で言うと、タレンツとエキスパーツのレベルが非常に高いという事でしょうか。TT含めこれらのワークショップは基本的に若手監督、プロデューサー向けなのですが、TTには例えば今年はインドネシアのYulia Evina Bharaという近年大活躍しているプロデューサーがタレンツとして参加しています。エキスパーツはもちろんアジアのメンターとも言える市山尚三さんの存在が大きいのですが、今年は黒沢清監督のマスタークラスが実施されます。そういったハイレベルな1週間のプログラムの中で、お互い刺激しあい、結果としてTT修了生がベルリン、カンヌ、ベネチアといった世界の主要映画祭で活躍しているのだと実感します。

TTは日本人の監督やプロデューサーも、実績があってもなくてもチャレンジする価値のある素晴らしいプログラムです。しかし世界から注目されるTTの実際の魅力は何なのか?ぜひ皆さんにも11月5日のオープン・デーに参加して頂き体感して頂きたいですし、私も今年のプログラムを覗き見して探ってみたいと思います。

IMAI Taro (Producer, 2018 Alumnus)
今井太郎(プロデューサー、2018年修了) 

高校卒業後渡米し、Los Angeles City Collegeで映画製作を専攻。帰国後、10年間一般企業にて勤めた後、大阪でharakiri filmsを立ち上げる。2016年にプロデュースした藤村明世監督の『見栄を張る』は国内外7カ国の映画祭で上映され、国内とタイで劇場公開された。その実績が評価され、Ties That Bind、Busan Asian Film School、Talents Tokyo、Rotterdam