修了生レポート

TT2021 修了生レポート 5

今年のTOKYO FILMeXで上映された「White Building」の監督Neang KavichがTalents Tokyo卒業生として講義をするにあたって、モデレーターを務めた。私が見た同期Kavichによる2016年Talents Tokyoを経て、前作「Last Night I Saw You Smiling」から「White Building」制作までの過程を共有できたらと思います。

彼との出会いは2016年のTalents Tokyo、私は初めて参加する国際共同制作のワークショップに気持ち昂ぶる中、飛行機に乗り遅れたカンボジアの監督Neang Kavichが初日を欠席するとのアナウンスがあった。2日目の講義の途中にはにかみながら現れたKavichと同部屋で寝食を共にしすっかり意気投合し、私たちは互いの映画について話すようになった。

彼が企画していた劇映画は、解体されることが決まった巨大市営アパートWhite Buildingに住む若者たちの青春群像劇。White Buildingはクメール・ルージュを乗り越えた歴史的建造物であり、500組を超える家族が生活している。Kavichは父の代から住んでいたが、日本主導の急激な再開発で取り壊される予定だった。

Kavichが自身で撮りためていたピッチング用の映像を見せてもらうと、Kavichは、喪失の中で生きる家族と隣人を通して、大きな暴力とその元で生きる人々をしかとまなざしていて、どんなピッチングの言葉よりも強く説得力があった。

その後も映画祭で親睦を深めていったある日、Kavichの友人でアソシエイトプロデューサーを務めるSteve CHENからWhite Buildingの取り壊しが早まったと聞き、難航する劇映画の進捗を待たずに、とにかく目の前を撮ることを応援した。おそらく当初は映画になるかもわからなかったであろうKavichは自身のために撮った50時間の映像を編集してできたのが、ドキュメンタリー映画「Last Night I Saw You Smiling」で、ロッテルダム映画祭でプレミア、2019年のTOKYO FILMeXで上映された。

またTalents Tokyoでの劇映画の企画は並行して進められ、「White Building」として彼の記憶は昇華された。今年のヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でプレミアされ俳優賞を受賞した。

今年のTalents Tokyoの講義では、KavichのチームAnti Archiveを核に、プロデューサーのジャ・ジャンクー、フランスの編集技師やカラリストが参加した国際共同制作の体制やファンドの話も詳細にあり、コロナ禍で意見を交換する機会が失われている中、オンラインにも関わらず参加者から多くの質問が上がった。

今年はモデレーターとしての参加であったが、自分なりの発見になったのが、「White Building」で描かれる暴力の存在とその描かれ方だ。

ダンサーを志す青年は、立退きの進む建物の中で、夢を見ることさえもできず青春の終わりを迎え、病に冒されながらも住民を代表して政府と戦う父親が足の切断を迫られる状況を止めることができない。

前作のドキュメンタリーでは残酷な破壊の風景が捉えられていたが、今作の劇映画では破壊を前に周囲もろともじわじわと心底を蝕んでいく澱みが描かれる。厳しい現実に対し漂う主人公は、ともすれば受動的にも見えたが、Talents Tokyoのアジアのフィルムメイカーの間では、圧倒的な暴力の状況下に生きる現代のやるせない実感として共感があった。

Talents Tokyoではアジアに生きる最前線のフィルムメイカーたちの視点が交わり、また創作へと向かわせる場だと思う。私自身は、その暴力の源泉がどのように立ち現れていくかを炙り出したいと思っている。コロナ禍を経て年月の中で形を変えていけど、たくさんの人の刺激を受けながら、改めて形にしようと思った。

KINOSHITA Yusuke (Director, 2016 Alumnus)
木下雄介(監督、2016年修了)

1981年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。監督・脚本・撮影・編集した自主映画『鳥籠』(02)がぴあフィルムフェスティバルにて準グランプリと観客賞を受賞。第15回PFFスカラシップとなる初長編映画『水の花』(06)がベルリン国際映画祭に出品される。その後短編映画『NOTHING UNUSUAL』(12)を発表。
最新作は是枝裕和総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(18)の一編『いたずら同盟』。香港で製作された『十年』(15)を元に、日本・タイ・台湾の映像作家がそれぞれの国の10年後を描いた国際共同プロジェクトに参加。日本版の『十年Ten Years Japan』は釜山国際映画祭に出品され国内外で劇場公開された。